【三井の寿】映画化で再び注目が集まる「スラムダンク」の 登場人物名前の由来となった純米酒-1

【三井の寿】映画化で再び注目が集まる「スラムダンク」の 登場人物名前の由来となった純米酒

筑後地方では、古くから筑後川の清らかな水や筑後平野の米に恵まれて酒造りが盛んに行われていました。今回訪れたのは、三井郡大刀洗町に蔵を構える「みいの寿」。創業100年を迎える蔵の歴史や、今秋映画が公開される漫画「スラムダンク」の登場人物の名前の由来になった純米酒「三井の寿」の魅力について、蔵元杜氏の井上宰継(ただつぐ)さんにお話を伺いました。


~ のどかな田園風景に囲まれた「みいの寿」を訪ねて ~


「みいの寿」の誕生、そして100年の歴史


クロスロードふくおか編集担当

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この辺りは酒造りが盛んだったのですか。

蔵元杜氏 井上さん

蔵元杜氏 井上さん

そうですね、現在でも大刀洗町や旧三井郡の地区には長く続く酒蔵が点在しています。筑後平野は良質の水に恵まれ、古くから米作りも盛んだったため、酒造りに適した場所だったのでしょう

クロスロードふくおか編集担当

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「みいの寿」の歴史について教えてください。

蔵元杜氏 井上さん

蔵元杜氏 井上さん

うちはもともと米問屋だったんです。当時は酒米と食用の米の区別はなく、筑後平野で獲れた米をそばの小石原川から城島の酒蔵に船で運んでいたそうです。米は豊富にあったため、1922(大正11)年にこちらでも酒造りを始めました。今年の12月で創業100年を迎えるのですが、1922年は新規で日本酒の酒造免許が発行された最後の年※なので、酒蔵としては新しい方なのです


(※国内の日本酒需要が減少しているという理由から、1923年以降、免許の新規発行は原則として行われていません。2021年から輸出向けに限り、新規申請が可能となりました。)

クロスロードふくおか編集担当

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井上さんは、いつから酒造りに携わっているのでしょうか。

蔵元杜氏 井上さん

蔵元杜氏 井上さん

私は会社勤めを経て、27歳の時に蔵を継ぐために帰って来ました。約24年前のことです。その頃は、ちょうどうちのお酒の評判があまり芳しくなかった時期でして、私も酒造りに携わるなかで味や造り方に疑問を持つようになっていました。そこで、杜氏がほかの蔵に移るのを機に、私が杜氏となる製造部を立ち上げ、弟と私を中心に酒造りをはじめたのです。当初は、酒造りの知識がまだ乏しかったので、先生となる方を招き、指導を仰ぎながら2年ほどで納得できる仕上がりになりました

クロスロードふくおか編集担当

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若き杜氏になられたのですね。不安などはありませんでしたか。

蔵元杜氏 井上さん

蔵元杜氏 井上さん

自分の思う通りに酒を造られるという期待の方が大きかったですね。そのおかげでおいしいと思う酒を造っている酒蔵を訪問し、いいと思うことは取り入れるなど新しいことにも挑戦することができました。そうやって教わってきたたくさんの酒蔵が師匠であり、先生だと思っています


漫画「スラムダンク」三井寿 名づけの由来となった「三井の寿」


クロスロードふくおか編集担当

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「三井の寿」と言えば、バスケットを題材にした漫画「スラムダンク」との関係性もよく知られています。「安西先生、バスケがしたいです」という名言やスリーポイントシューターとして知られる三井寿の名前の由来になったのが、「三井の寿」なのだそうですね。

蔵元杜氏 井上さん

蔵元杜氏 井上さん

はい、作者の井上雄彦先生が公言されています。私は今も欠かさず読んでいるくらい週刊少年ジャンプが好きなのですが、連載当時は、うちのお酒?と驚きました。ほかにも大楠や高宮、野間といった福岡の地名が登場人物の名前になっていますし、うちの近くには流川という交差点もあるんですよ。私も井上なので友人に親戚なのか?と聞かれたことも。井上先生が日本酒好きということも知っていたのでもしかしてとは思っていましたが、実際にそうだと知って本当だったのだと思いました

クロスロードふくおか編集担当

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作品のファンの方が「三井の寿」を求められることも多いでしょうね。

蔵元杜氏 井上さん

蔵元杜氏 井上さん

はい、おかげさまで多くのファンの方によろこんでいただいています。特にダブルA面ラベル『純米吟醸大辛口 三井の寿+14』はスラムダンクファンの方に向けた日本酒です。アルコール度数は三井寿の背番号に合わせた14度、発売日は三井寿の誕生日、5月22日にしました。来年、発売10周年を迎えます

クロスロードふくおか編集担当

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今年の秋には「スラムダンク」の映画が公開されるのでますます注目を集めそうですね。

蔵元杜氏 井上さん

蔵元杜氏 井上さん

これまで『三井の寿』を知らなかった方にも飲んでいただける機会になるとうれしいですね


酒造りへのこだわりや想い


クロスロードふくおか編集担当

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酒造りに使う、水や米について教えてください。また、造り方の特徴などはありますか。

蔵元杜氏 井上さん

蔵元杜氏 井上さん

当蔵では創業当時から変わらず、目の前に流れる小石原川の伏流水を酒造りに使っています。酒造りだけでなく、敷地内で使うすべての水を井戸水でまかなえるほど豊かな水に恵まれています。米は糸島の山田錦を中心に使用しています。造り方は昔からの手法に忠実で、変わったことは何もしていません。ただ、『酒蔵萬流』という言葉があるように、基本は一緒であってもそれぞれの蔵や杜氏の造り方がその蔵の味になるのではないでしょうか

クロスロードふくおか編集担当

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「みいの寿」の日本酒の特徴を教えてください。

蔵元杜氏 井上さん

蔵元杜氏 井上さん

私たちが造る日本酒のほとんどは純米酒です。日本酒は原料や精米歩合などによって分類され、米、米麹、水だけで造られるものを純米酒と呼びます。一般的な日本酒に添加される醸造アルコールを使わない、米だけを原料とする純米酒は、米本来の旨みをしっかり感じられるのが特徴です

クロスロードふくおか編集担当

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いつ頃、純米酒に特化した酒蔵になったのでしょうか。

蔵元杜氏 井上さん

蔵元杜氏 井上さん

約40年前、福岡市が世界的なワインの産地フランス・ボルドー市と姉妹都市を締結した時に、私の父である現在の会長が現地の視察に同行し、5大シャトーを見学したことがきっかけです。ワイン造りの情熱やプライドに感銘を受け、『日本酒造りもこうなって行くべきだ』と強く思ったのだそうです。
帰国後から純米酒造りを始め、私が杜氏を任される頃にはほぼ純米酒のみを造るようになっていました。今も大吟醸と本醸造を1本ずつ造っていますが、そのほかは純米酒です。普通酒は造っていないので、100%特定名称酒蔵ですね


クロスロードふくおか編集担当

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酒造りのうえで、大事にしていることを教えてください。

蔵元杜氏 井上さん

蔵元杜氏 井上さん

私の酒造りのモットーは『科学、センス、情熱』。この3つが必要だと考えています。酒の造り方は昔から変わりませんが、時代が進むにつれ化学的に解明されたことも多くあり、技術の向上につながりました。
ただ、化学的なことだけでは説明できないことも多いのです。例えば料理を作る時、同じ食材や道具で作ったとしても、下ごしらえや火にかける時間、調味料を入れる順番などでできあがりが変わりますよね。それと同じように数字や理論だけでは表すことが難しい、さまざまな要素が組み合わさって酒造りは行われるので“科学”と言っています。
そして最適なタイミングを見極めたり、新しいことを試してみようというひらめきなどは、教わるものではなくセンスではないでしょうか。 また、やはり『おいしい酒を造りたい』という情熱は欠かせません。それに加えて、私は自慢したいタイプなので(笑)、賞を取ることへの情熱も持ち続けてきました

クロスロードふくおか編集担当

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その3つの要素が、いまの「三井の寿」の評判に繋がっているのですね。

蔵元杜氏 井上さん

蔵元杜氏 井上さん

そうですね、おかげさまでうれしいお声をたくさんいただいています。会長がよく言うのが“おいしい酒が営業マン”という言葉。おいしいお酒を造っていれば、売り込まずともお客さまがついてくれるという意味です。実際に、ここ10年は営業担当がいないんですよ。お酒の管理がしっかりとした、信頼できる販売先といい関係でお取引ができています

クロスロードふくおか編集担当

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受賞歴も多いと聞いています。

蔵元杜氏 井上さん

蔵元杜氏 井上さん

毎年、春に行われる『全国新酒鑑評会』では出品した20回のうち、入賞が7回、金賞が12回です。残念ながら1度だけ賞を逃したのですが、9割5分の受賞率は全国でもめずらしいのではないでしょうか。今では『受賞するのが当たり前』と思われているので、結果発表が近くなると胃が痛くなりますね(笑)。
また、昨年の『第9回 福岡県酒類鑑評会』では出品したすべての部門で金賞を受賞し、大吟醸酒、純米吟醸酒・純米酒の2部門で最高賞の福岡県知事賞をいただきました


おすすめの日本酒


クロスロードふくおか編集担当

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これからの季節におすすめの日本酒を教えてください。

蔵元杜氏 井上さん

蔵元杜氏 井上さん

季節限定の日本酒、イタリアンラベルシリーズの『Quadrifoglio(クワドリフォリオ)』はいかがでしょうか。3~5月出荷の春限定酒で、幸せの四葉のクローバーという意味の銘柄です。イタリアンラベルシリーズは、日本酒業界全体の売り上げが思わしくなかった約15年前に開発したもので、初めて日本酒を飲んだ人にも飲みやすく感じてもらえるように、香り高くすっきりとした味わいに仕上げています

クロスロードふくおか編集担当

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すごくフレッシュな香りでまるでワインのような味わいですね。

蔵元杜氏 井上さん

蔵元杜氏 井上さん

ワインがお好きな方にも興味をもっていただこうと思って造ったものです。日本料理だけでなく、イタリアンなどのレストランでもよく使っていただいています。秋にはこのクワドリフォリオを秋まで貯蔵し、火入れをした“ひやおろし”の『Porcini(ポルチーニ)』が出るので、飲み比べてもらいたいですね。夏や冬にもそれぞれの季節のお酒を出荷しています


年の歴史のなかで、現在の純米酒へとたどり着いた「みいの寿」。“本当においしい日本酒を味わってほしい”という井上さんの熱い思いが、多くの人に支持される日本酒を生み出しています。ぜひ、味わってみてはいかがでしょうか。


<みいの寿>
住所:三井郡大刀洗町大字栄田
電話番号:0942-77-0019
ウェブサイト:https://miinokotobuki.com/
※蔵では販売を行っていません。全国約110店舗の地酒専門店で購入でき、福岡県内では「とどろき酒店」や「住吉酒販」などが取り扱っています。


もっと知りたい!福岡のお酒(取材協力:福岡県酒造組合)

これまで「みいの寿」を紹介してきましたが、福岡県にはほかにも特色のある酒蔵が数多く存在しています。現在、県内に日本酒(清酒)の蔵元が58軒あり、その数は全国5位を誇ります。
古くからシュガーロードの存在により砂糖が普及していた九州では、醤油や味噌など甘口のものが多く、料理の味付けも濃いめでした。お酒も一般的に甘口で、味の濃いものが多く造られていました。しかし、最近では日本中どこでも全国のお酒が飲めるようになり、味わいがかなり変化しています。

現在は福岡のお酒も全国で展開しているので、さまざまなものが造られていますが、味は基本的に淡麗なものよりふくらみのある濃いめのものが多いといわれています。特に最近は純米酒(純米吟醸・純米大吟醸を含む)ものが多く造られるようになりました。また、時期に合わせた酒造り、しぼりたて、にごり酒、発泡清酒など蔵ごとに特徴を持ったものが造られています。
春に飲むなら、爽やかな「発泡清酒」やフレッシュな「生酒」などがおすすめです。また「しぼりたて」の多くは今頃の時期までのお楽しみです。日本酒は温度によっても味わいが変わります。料理に合わせてお酒を選び温度も選んでみてはいかがでしょうか。

また、寒い時期から各地で行われてきた酒蔵開きはそろそろクライマックス。
4月に入ってからもいくつかの蔵元で行われる予定です。日程は福岡県酒造組合のホームページから確認できます。
酒蔵開きでは、蔵元で直接味わうことでついつい飲み過ぎてしまう方が多いのだそう。お酒に強い方も控えめを心がけ、酒蔵開きを楽しく満喫しましょう。

公開日:2022年3月31日
最終更新日:2023年1月25日


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