【ふくおか祭前線】第1回 津屋崎祇園山笠
地域やそこに住まう人々の魅力がいちばん輝く瞬間が、祭りです。そこには地域の歴史や先人の思い、今を生きる人々の未来への思いが詰まっています。一方で、祭りは体験型ツーリズムとしてインバウンドを含めた観光コンテンツとしてもあらためて注目されています。
この「ふくおか祭前線」シリーズでは、地域に息づく個性豊かな祭りを臨場感あふれる写真で紹介するとともに、祭りの伝統を支えている方々へのインタビューを通して、伝統を守ってきた世代と未来を担う世代、2つの視点から、福岡の祭りの「いま」(最前線)を伝えます。第1回のテーマは津屋崎祇園山笠(福津市)です。
この瞬間こそ熱い夏!潮風を裂き勇む山!
「オイサ、オイサ!」
男衆の熱気と共に、潮風吹く津屋崎の町屋を山笠が駆け抜けます。津屋崎祇園山笠は1714年から300年以上続く夏祭り。山笠に神様を迎えて町をはらい清め、無病息災を祈願する奉納行事です。子どもからお年寄りまで、山笠と走ったり、水をかけたり、直会(なおらい※)の準備をしたり。それぞれがこの祭りに参加することを楽しみに、津屋崎の町全体が一つとなって祭りを盛り上げます。
※直会とは:神事や行事後、神前へのお供えものなどを参加者一同でいただく儀式や食事会
津屋崎祇園山笠は、地域を3つのエリア=流(ながれ)に分けて山笠が建てられます。昔から漁業が盛んだった「北流」(ハチマキは桃色)、商業が栄えた「新町流」(黄色)、農業が中心だった「岡流」(赤色)。ハチマキの色でどこの流か一目でわかります。毎年7月19日に近い日曜に「追い山」が行われ、2026年の今年は7月19日(日)が追い山当日。前日夜の「裸参り」と合わせて、福津市の夏のクライマックスが間もなく訪れます。
【開催概要】
開催日:2026年7月18日(土)裸参り、19日(日)追い山
スケジュール:
裸参り(7月18日) 18:40 一番山お宮入り
追い山(7月19日) 7:50 一番山お宮入り、8:30 追い山開始
復活して52年。300年続く祭りを、未来へつなぐために
津屋崎祇園山笠は1963年に一時途絶えましたが、1975年に復活を果たし、今年で52年目を迎えます。長年にわたり祭りを支え続ける深田政武さん・将臣さん親子に、祭りの歴史と、未来へつなぐための思いを聞きました。
写真左:深田政武(ふかだまさたけ)さん 津屋崎祇園山笠振興会 本部相談役
写真右:深田将臣(ふかだまさおみ)さん 岡流 若頭
津屋崎祇園山笠と博多祇園山笠の違い
―博多の山笠と、どのような違いがあるのでしょうか?
政武さん
津屋崎祇園山笠は舁(か)き棒の長さが違うくらいで、山笠の作りや舁き方、奉納の思いは博多のものと共通しています。小さな町に昔から「岡流」「新町流」「北流」という3つの流があり、ハチマキの色でどこの流か一目でわかります。昔の町割りで、岡は農業、新町は町人、北は漁業という区分けが今も残っているんです。
博多と違うのは、「追い山」を走る順番を毎年「くじ」で決めるところですね。追い山の前日に波折神社で「くじ取り式」があるのですが、これが面白い。3回くじを引くのですが、最初は座る順番を決めるくじ、次に本くじを引く順番を決めるくじ。これで一番くじを引いた人は、本くじを最初に引けるんです。本くじでは、最初に一番山を引くこともあれば、残りくじが一番山になることもある。山笠に出る人間はみんな一番山になりたいけれど、くじで決まるので緊張感があります。一番山は追い山スタートの時に、「祝い目出度(めでた)」を歌うことができます。歌ったら、手一本はせずにそのまま走り出していく。そこが博多とはちょっと違いますね。
将臣さん
博多の「櫛田入り」のように、波折神社の境内に一番山から順に入ってくる「宮入り」も見どころです。神社の境内を右回りして山笠を据え、3つの山笠が境内にそろう瞬間の高揚感は格別ですよ。
地域の絆で守り抜いた、復活の歴史
―山笠に参加されるのは、やはり地元の方が多いんですか?
政武さん
基本は津屋崎エリアに住まわれる方々です。ただ、現在は舁き手が少なくなってきていますので、各流でもいろんな呼びかけをして集めています。
将臣さん
各流とも総勢150名ほどで、その中で実質、山笠に付くのは半分くらいかな?舁き手を確保することも大事ですが、それ以上に地域の皆さんに山笠を好きになってもらうのが大切だと考えています。
政武さん
実は津屋崎祇園山笠は舁き手の減少を理由に、1963年に一度途絶え、1975年に復活した経緯があります。祭りがない間も「やっぱ津屋崎には山笠がなからにゃ(なくては)」と、かつて山笠を引いていた人たちの強い思いで復活したんです。1975年に、まず1つの山を復活させましたので、3流みんなで1本。3色のハチマキが入り乱れた状態でした。翌年には昔ながらのスタイルに戻りました。それと、以前は「追い山」が7月19日と決まっていたんですが、サラリーマンなど働いている世代が参加しやすいよう、現在は「7月19日に近い日曜」へと変更しています。時代に合わせて形を変えながら、存続させてきた祭りなんです。
ここに注目!「追い山」の駆け引き
―津屋崎祇園山笠の見どころを教えてください。
政武さん
波折神社を出てすぐの追い山のスタートですね。波折神社を出てすぐ東に向かい、そのまま進むとドン突き(行き止まり)で。裏山笠(背面)のまま引き返し、波折神社の手前で山笠の向きを直すんです。この道が狭いので、二番山はまだ出てこられない。一番山はここで、もったいぶるように時間をかけて体制を整えながら準備するんです。「はよ行かんか(早く行け)」「あわつんな(あわてるな)」「はよ行かんか」「あわつんな」って(笑)。一番山の舁き棒が抜けた瞬間に二番山がスタート、一番山を追いかけていくわけです。その駆け引きが最初の見どころですね。
あとは、港近くの「オトフジ」という難所。路地から抜けてくる角で、一番山が抜けるのと三番山が上がってくるのが同じタイミングになる場所があります。一番山が先に行くか、三番山が先に行くか、本部役員が判定して流の旗を振るくらい真剣な駆け引きが行われるのが見どころです。
将臣さん
「しおさい通りの十字路」もおすすめです。しおさい通りの浜側と岡側に1つずつ、2本の清道(しょうどう)を立てます。一番山から順に清道を回ることになりますが、タイミングが合えば3つの山笠を一度に見ることができるかもしれません。
次世代への継承
―振興会本部役員としては、祭り本番以外の活動も多いのでは?
政武さん
そうですね。復活して52年、継承していく思いが強くなりました。小学校にも協力してもらいながら、子ども山笠にも力を入れていて、今年からは高学年の子どもたちが実際に走らせる山笠の準備も進めています。これまで低学年の子どもたちに山笠を勉強してもらったので、高学年になったら山笠に付いてみよう、そんな構想が小学校にあるそうです。山笠という一つの目標のために小学校のクラスを超えて全員で達成しよう、と。全員の共同作業として山笠を動かす。コーチ役として小学校にも教えに行っているんです。
―若頭の役割もたくさんありそうですね。
将臣さん
私は「岡ノ二」という町の若頭ですが、地域みんなが無病息災で健康に過ごせるように、という願いを込めて、公民館で歴史の勉強会を開いています。対象はお父さんだけでなく、お母さんや子どもたちも一緒に。山笠自体に神様が乗っているので、神様が町内に来るのと一緒なんです。お正月に神社へお参りするように、家の前に山笠が来た時は、ぜひ家から出てきて健康を願ってほしい。そうやって家族みんなで関われば、自然と祭りは盛り上がりますから。
今年の「追い山」は、7月19日がちょうど日曜。朝8:30に舁き出しが始まります。津屋崎の街中に響く掛け声と熱気。大人から子どもまで、地域みんなで守り継いできた誇りと祈りの夏祭りを、ぜひその目で確かめてみませんか。「実際に参加したい」という方には、法被や締込みの貸し出し準備もあるとのこと。3流の山笠が揃う波折神社前の桟敷席から、あるいは街角から。津屋崎の熱い夏が、すぐそこまで来ています。
まだある夏の祭前線
福岡県広報誌「グラフふくおか」
写真を主体として、福岡県の今の魅力や市町村の取り組み、地域で頑張っている皆さんの姿などを伝える季刊誌。「ふくおか祭前線」は2026年度の連載シリーズです。県庁1F総合案内所や各市町村役場、図書館、福岡市情報プラザ(福岡市役所1F)、アクロス福岡2F文化観光情報ひろばなどで配布されています。